母の心音(こころね)
「十月二十六日、仕事も片付いて、一時の休息やった。仕事のことを忘れて、仏壇に手を合わせたんや。目を閉じて静に拝んだんや。今までに無い静寂やった。子供のことやら世間のことやらを思って居った嵐のような昔が浮かんでは消え、浮かんでは消えしてな。そしてな、ふーっと仏壇を見たんや。そこにはな、雨が降ろうが、嵐が来ようが、平然とした、しかも清らかな仏の姿を見たんや。六十一歳になった私の心にしみいったように思えてな」
歳ふれど
気付かざりけり御仏の
清く尊き愛のみすがた
「十月三十日、今日は記念日や。主人がな、若い頃からやってきた山仕事をやめて、私の姉の子供が経営しとる花屋の経理をすることにしたんや。区の経理をやっとたんでな。大きな借金を抱えて、会社が危なかったんや。それを立て直すのに主人が力を貸したんや。主人も歳をとって、山仕事は大変やと言うこともあってな。だけどな、長年やって来た仕事をやめるとなると、秋の夕暮れのように寂しくてな。主人の顔を見ると自分まで沈んでしまうんや」
今日限り
山の仕事にさよならを
告げる夫は老いて寂しく
歳ふれど
気付かざりけり御仏の
清く尊き愛のみすがた
「十月三十日、今日は記念日や。主人がな、若い頃からやってきた山仕事をやめて、私の姉の子供が経営しとる花屋の経理をすることにしたんや。区の経理をやっとたんでな。大きな借金を抱えて、会社が危なかったんや。それを立て直すのに主人が力を貸したんや。主人も歳をとって、山仕事は大変やと言うこともあってな。だけどな、長年やって来た仕事をやめるとなると、秋の夕暮れのように寂しくてな。主人の顔を見ると自分まで沈んでしまうんや」
今日限り
山の仕事にさよならを
告げる夫は老いて寂しく