魔法の指先
そう、この場所と同じように。

「強いね、心亜ちゃんは」
『……強くなんかない』

「ううん、私なんかよりもずっと強いよ。私はそんな風に頑張れない。いつも逃げてばかりで前に進めないの。こんなんじゃ、学君にも捨てられちゃうってわかってるのにそれができない。臆病者なの私」

私は悲観的に言う彼女に心底苛ついた。自分が悲劇の主人公とでも勘違いしているみたいだ。世の中には私や彼女なんかよりもずっと辛い思いをしている人は沢山いる。けど彼等は笑顔を絶やさない。どんなに辛いことに直面しても。

それに比べれば私たちの悩みなどちっぽけなものだ。

『……私、行くね』
「あ、うん。また教室でね」
『うん』

お弁当も食べ終わり、ここにいる意味もなくなったので私は足早に立ち去った。



教室に戻って空のお弁当箱を片付けると私は保健室に向かった。起床が4時だったのでさすがに眠い。仮眠をとることにする。

『神威先生、ごめん。ちょっと寝かせて』
「なんだ、寝てないのか?」

保健医の神威 陽一。私がこの学園で唯一気の許せる相手だ。

『一応寝たんですけど、朝早くて…』
「……ベットが空いてるから寝てろ。気が向いたら起こしてやる」
『はい、ありがとうございます』

許可を得た私はカーテンを開け、真っ白な軋むベッドに横になった。そして眠りにつく。

………。
………。
………。
キーンコーンカーンコーン。

『ん……んぅ…』

チャイムの音で目覚める。時計を見ると午後の最後の授業が終わった時刻だった。

「よう、起きたか」
『はい、神威先生起こしてくれないんで』

閉めたカーテンを開け、体を起こせば神威先生が迎えてくれた。なにやら机の上で作業をしていたご様子。

「気が向いたらつったろ?」
『………』

確かにそうなのだが、こんなに眠るつもりはなかった。1時間だけ授業をサボるつもりが午後の授業を全てサボってしまった。1ヶ月に1度くらいしか学校に通えない私にとってはダメージが大きい。

「おら、起きたんならさっさっと帰ろ。俺は忙しいんだ」
『今帰ります』

私は半場、追い出される形で保健室を出た。まだ頭が冴えないが、教室へと向かう。もうじきHRが始まる頃だろうか?


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