魔法の指先
もし、そうならば急がなければならない。途中で入室して恥をかくのは嫌だ。

私は急ぎ足で教室に向かい、なんとかHRに間に合った。

「心亜ちゃん、午後の授業どうしたの?」

HRが終わり、帰りの支度をしていると華ちゃんが心配そうにやって来た。

『保健室で寝過ごしちゃって…』
「そうだったんだ。心亜ちゃんが授業サボるなんて珍しいから心配しちゃったよ」
『ごめんね…』
「ううん、それより帰ろ?」
『うん』

私は席を立って華ちゃんと共に教室を出た。

廊下の窓から見える生徒達は私にはない輝きを持っている。1分1秒大切なその時間。

泣き、笑い、悲しみ、助け合う。私にはそんな風に人生歩いて行けない。

ピリピリと張り詰めた空間。隙を見せれば全ておしまい。どん底まで落ちてしまう。そんな世界。気が抜けない。

「心亜ちゃん、この後仕事?」

校舎を出て並木道歩いている途中、華ちゃんは言った。

『今日は仕事はないよ』
「本当?じゃあ、これからどこか行こうよ!!」
『……ごめん。私、これから行くとこあるんだ。また今度ね?』
「そっかぁ……残念」

しょぼん、と効果音が聞こえそうな程彼女は落ち込んでいた。少し罪悪感が残る。

『じゃあ、私こっちだから…』
「あ、うん。またね、心亜ちゃん!!」
『バイバイ』

私たちは別々の方向へ歩く。



学校から10分ほど歩いた駅の裏側にそれはあった。ガラス張りのお洒落な外観で1階がブティックで2階が美容院になっているこぢんまりとしたお店だ。

チリーン、と鈴を鳴らして私はその2階へ訪れる。

「いらっしゃいませ!」

とびっきりの笑顔で受付の女性に迎え入れられる。

『こんにちは』
「あ、心亜さん!!お久しぶりですね。今日はお仕事じゃないんですか?」

彼女は箕山 雪。この美容院の受付嬢だ。黒髪のロングヘアーが彼女の白い肌によく映える。切れ長で涼しげな瞳が知的さを感じさせる。

『今日はお休みです。義人さん今、忙しいですか?』
「そうですね、担当のお客様が4人いますから」

『じゃあ、その間にネイルして貰えますか?』
「かしこまりました。担当は滝でよろしいですか?」

私がいつも指名してる人の名前だ。


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