魔法の指先
肩幅の広い大きな背中にスラッと伸びた長い足、ほのかに香るシトラス系の香り。その全てが大人な男性を感じさせる。私には不釣り合いなほどに。

『義人さん』
「ん?」

彼は立ち止まって顔だけこちらを向いた。

『初めて会った時のこと覚えてますか?』
「……覚えてるよ。あの時の心亜ちゃん、泣いてた。ボロボロになって『綺麗にして下さい』って」

そう、あの日私はクラスの女の子たちに集団リンチを受けてしまい、ボロボロになってしまっていたのだ。誰も助けてくれる者などいなかった。皆、見て見ぬふり。

蜂蜜色の長いこの髪と灰色がかった瞳のせいなのかもしれない。だから、いつも独りぼっち。

それが無性に悲しかった。

『はい、あの時女の子たちにボロボロにされて……でも、翌日も撮影だから髪の毛だけでもどうにかしなきゃ、って開いてる美容院探してたんです』
「それが、ウチだったってわけか」
『はい、本当にありがとうございました』
「綺麗にするのが俺の仕事だからね」

そう言いながら義人さんは再び長い足で歩き出す。私もその後を追う。

駐車場はすぐそこまで近づいていた。───真っ赤なスポーツカーがよく目立つ。友人から譲り受けたものらしい。

私は彼にエスコートされながら助手席に座った。いつものFMラジオが車内にかかる。

「なんか、かける?」
『いえ、いいです。このままで』
「そ?」

私はコンクリートの道路を走る車に乗せられながらキラキラと輝く外の景色を眺めた。

眠らない街それが東京───

そして、私の育った街。

「はい、着いたよ」

目の前には25階建ての高層マンション。事務所が勝手に用意してくれた。しかも最上階。夜景は綺麗だが、あの部屋を1人で過ごすのは少し寂しい。

『上がりますか?コーヒーくらい出せますけど』
「いいよ、まだ仕事残ってるし。また今度お邪魔するよ」
『そうですか。それじゃあ、また……』

次に会うのはいつだろうか?別れ際、いつもそう思ってしまう。

「寂しくなったらさ、店来ていいからね」
『え……』
「用事がなくても来ていいよ。寂しいでしょ?一人じゃ」

と、マンションの最上階を苦笑いを浮かべながら眺めた。


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