魔法の指先

イメージガール



木造の洒落た外観のその建物は薄暗いが、とても雰囲気がよく、カップルが多く入店している。

店名を【Clover】という。

内装はアンティーク調で統一されていて、外装と見事にマッチしている。

「いらっしゃいませ」

と、店内に入れば、よく通る低い男性の声が私を迎えてくれた。三十代前半のまだ若々しい爽やかな男性で私のことを昔からよく知っている人だ。

名前は栗山 秀といい、この店の経営者でもある。

『お久しぶりです、秀さん』
「おぉ!久しぶりだな、心亜。仕事の打ち合わせか?」

秀さんは一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔を浮かべてくれた。

『はい、多分。左海さんと待ち合わせなんです』
「そうか。じゃあ、奥の席使えよ。まだ空いてるから」
『ありがとうございます』

私は軽く会釈をしてからいつも仕事の打ち合わせなどに使わせてもらってる席へと移動した。実はこの席、仕切りがあって他の席からはあまり見えないようになっている。

こういう仕事をしていると、色々騒がれることが多いので非常に重宝させてもらっている。

二十分ほど経っただろうか、コーヒーを飲みながら本を読んで時間を潰していると二つの足音が聞こえてきた。

身を乗り出して確認すると左海さんともう一人、見知らぬ中年の男性が肩を並べ、仲良くこちらへやって来るのが見えた。

「ごめん、心亜ちゃん。待たせたね」
『ぃ、いえ…』

左海さんとその男性は私の前に座って一息つく。

改めてその男性を見てみると、三十代後半から四十代前半の口髭を生やした紳士的そうな男性でどこか見覚えのある顔だ。だが、それが誰なのかは思い出せない。

「心亜ちゃん、こちら川島 英生プロデューサー。一度、心亜ちゃんと仕事したことあるはずなんだけど…覚えてないかな?」
『えっと……ごめんなさいι』
「覚えてないのも無理ないよ、左海君。一緒に仕事したと言っても心亜ちゃんが七歳の頃だからね」
『七歳?』
「うん、心亜ちゃん僕のことをヒデちゃんって呼んでだんだよ?覚えてないだろうけど」
『………』

川島さんはとても懐かしそうに笑って話すのだが、全く覚えてない。


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