魔法の指先
確かに。川島さんの言うことは一理ある。口紅の宣材でキスシーンが用いられることは多い。だか、私はキスをしたことが一度もない。ファーストキスを公表するのはなんだか、悲しいようで切ない。
「駄目かな?…心亜ちゃん」
『……少し、考えさせてくれますか?』
「勿論。───いい決断を期待しているよ」
「悪い話じゃないと思うがね、心亜ちゃんにとっても」
確かにマリアーズの専属モデルになれば活躍の場も広がるだろう。テレビやドラマ、沢山のオファーが来るかもしれない。だが、私はモデルだ。タレントでもアイドルでもない。
「取り敢えず今日は帰ろうか。本当はもっと色々話したいんだけど、もう遅いからね」
『はい』
時計を見ると針は10時を差していた。
私たちは速やかに席を立って、店を出る。会計は左海さんが済ませてくれた。
「心亜ちゃん、家まで送るよ。夜道は危ないからね」
『ありがとうございます』
黒のBMWの運転席に左海さんは座り、川島さんと私は後座席に座る。───車が走行中の私たちは一言も言葉を交わさずただじっと家に着くのを待っていた。
「着いたよ、心亜ちゃん」
目の前に広がるのは相変わらず大きな高層マンション。
『ありがとうございます』
「いいよ、今日は急に呼び立ててごめんね?」
『いえ……』
「また明日」
『はい、おやすみなさい』
私は車から降りて、車内にいる2人に軽く会釈をしてから家に帰った。
そしてすぐに浴槽にお湯を溜めて、疲れた身体を癒す。その間に先ほど左海さんから依頼された仕事内容について改めて考えてみた。
仕事としてはとてもやりがいのある仕事だし、キスシーンという言葉がなければ即決で受けていたと思う。ファーストキスぐらいは好きな人としたい、と思うのが乙女心。だが、それはプロとして失格なような気がしてならない。
やってみたいという気持ちとやりたくない気持ちが心の中で見え隠れする。
『……どうしよう』
お風呂から上がり、ストレッチしながらも考えていたが結局、決断は出来なかった。
その夜、中々寝付けずに夜中まで起きてそのことを考えていたのは言うまでもない。
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「駄目かな?…心亜ちゃん」
『……少し、考えさせてくれますか?』
「勿論。───いい決断を期待しているよ」
「悪い話じゃないと思うがね、心亜ちゃんにとっても」
確かにマリアーズの専属モデルになれば活躍の場も広がるだろう。テレビやドラマ、沢山のオファーが来るかもしれない。だが、私はモデルだ。タレントでもアイドルでもない。
「取り敢えず今日は帰ろうか。本当はもっと色々話したいんだけど、もう遅いからね」
『はい』
時計を見ると針は10時を差していた。
私たちは速やかに席を立って、店を出る。会計は左海さんが済ませてくれた。
「心亜ちゃん、家まで送るよ。夜道は危ないからね」
『ありがとうございます』
黒のBMWの運転席に左海さんは座り、川島さんと私は後座席に座る。───車が走行中の私たちは一言も言葉を交わさずただじっと家に着くのを待っていた。
「着いたよ、心亜ちゃん」
目の前に広がるのは相変わらず大きな高層マンション。
『ありがとうございます』
「いいよ、今日は急に呼び立ててごめんね?」
『いえ……』
「また明日」
『はい、おやすみなさい』
私は車から降りて、車内にいる2人に軽く会釈をしてから家に帰った。
そしてすぐに浴槽にお湯を溜めて、疲れた身体を癒す。その間に先ほど左海さんから依頼された仕事内容について改めて考えてみた。
仕事としてはとてもやりがいのある仕事だし、キスシーンという言葉がなければ即決で受けていたと思う。ファーストキスぐらいは好きな人としたい、と思うのが乙女心。だが、それはプロとして失格なような気がしてならない。
やってみたいという気持ちとやりたくない気持ちが心の中で見え隠れする。
『……どうしよう』
お風呂から上がり、ストレッチしながらも考えていたが結局、決断は出来なかった。
その夜、中々寝付けずに夜中まで起きてそのことを考えていたのは言うまでもない。
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