魔法の指先


私が通う星陵学園はここから然程遠くない。車で10分とかからない。自宅からだと少し遠くなり、バスで15分程掛かってしまうが、それでも他の通学生徒と比べると近い距離だ。1時間くらいかけて通学する生徒も少なくないらしい。

この学園は都内でも有名な進学校で幼稚園から大学までエスカレーター式。毎年競争率が激しいとのこと。近年は可愛い制服目当てで受験す女子生徒が多い模様。しかし、私がこの学園に高等部から入学したのはそんな理由ではない。だからといって大学に進学したいわけもない。もっとちっぽけで小さな理由。

桜の並木道。それが決め手だった。校門まで続く長い並木道は春になると桜が満開に咲いてそれはそれは綺麗だった。───あの道を歩きたい。そんな小さな理由。

「着いたぞ」

気づけば目の前には大好きな並木道。5月中旬のこの頃はすでに桜は散っていて、緑の葉が青々と茂っている。

ちらほらと登校中の生徒たちの視線がこちらに集まる。

「ありがと。行ってくる」
「あぁ、迎えどうする?」
「いい、1人で帰る。義人さんとこ寄ってきたいし」
「そうか。あんま遅くまで外出歩くなよ?」
「うん、わかってる」

と、私は車から降りてバタン、とドアを閉めた。そして、ブォオオオオという音と共に車は走り去ってゆく。排気ガスだけがその場に残った。

くるり、と踵を返して校門へと歩き始めたその時、

「心亜ちゃーん!!」

甲高くどこか聞き覚えのある声が聞こえた。この学園で私に声をかける者など彼女1人しかいない。私と然程変わらない背丈の小さな体がピョコピョコ、とこちらへ近づいてくる。まるでヒヨコみたいだ。

「華ちゃん」
「おはよー、心亜ちゃん」

彼女は篠宮 華。15歳。同じクラスのクラスメイトで何かと私にまとわりついてくる不思議な子だ。名前通り華のようにふわふわと綺麗に笑う女の子でとても可愛いらしい。───私とは正反対。どちらかというと、カッコイイなどと騒がれる。

彼女がその場にいるだけでほわわん、と和み癒される。所謂、癒し系だ。

「おはよ」
「久しぶりだね、1ヶ月ぶり?」
「うん。やっと休みとれたから」


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