魔法の指先
『あの……えっと…』
「こら、お前等!!ここはテレビ局じゃないんだ、あまり騒ぐな。サインなら後で貰え!そこにいられると通行人の邪魔だ」
「「「「え~!」」」」

困っていた私を救世主のごとく救ってくれたのは先ほどまで女子生徒に絡まれていた男性教師だった。

彼女たちは文句を言いながらも渋々校舎へと消えていく。

『……ふぅ』
「大変だね、心亜ちゃんも」
『もう慣れたよ。───先生、ありがとうごさいました』
「ん?俺は何もしてねぇぞ?」

惚けるその男性教師はきっと生徒からの信頼も厚いことだろう。屈託のない笑顔で生徒に挨拶し続けるその姿は彼等となんら変わりない子供のようだ。

私たちはその彼を1人残して校舎へと入っていく。───後で華ちゃんから聞いた話なのだが、彼は私たちのクラスの担任教師らしい。名前は菅原 壱。25歳。担当科目は科学で1年の生徒指導。あの若さとルックスで女子生徒に人気とのこと。だが、生憎ルックスのいい男は嫌ってほど見てきているので何も感じない。

きっと何度か会ったことがある筈なのだが、全く記憶にない。失礼なことに。

ガラッと教室に辿り着いてドアを開けると、一斉にこちらへ視線が注がれる。華ちゃんは気にすることなく自席に着いた。

私は教卓の前に立ち止まって1人思案していた。はて?私の席はどこだろう、と。

「秋山さんの席は窓際の1番後ろだよ」

それに気づいた前の席に座っている女の子───紫津 綾さん。黒髪のボブカットがよく似合う。───が席を教えてくれた。

『ありがとう。紫津さん』
「綾でいいよ、皆そう呼ぶし」

誰に対しても分け隔てなく接する彼女は男女を問わず人気。唯一私をクラスメイトとして接してくれる貴重な存在。

私は彼女のその言葉に軽く微笑み返し、教えられた席に向かった。───が、そこには先客がいた。

「Zzzz...」

スヤスヤと気持ち良さそうに机の上で伏せ寝している男子生徒。黒髪のパーマがかった髪型が特徴的。

私は後ろに回って椅子の背もたれを確認した。───間違いない。はっきり【秋山 心亜】と印してある。ここが私の席だ。

『ぁの……すみません』

軽く揺さぶって起こそうと試みるが、

「Zzzz...」
『………ι』


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