pp―the piano players―

 この家を出よう。わたしはそう、あの発表会の日から心に決めていた。ピアノの道を志すことのないわたしが、ここにいることは出来ない、と。
 高校を卒業し、大学が決まったときは、踏ん切りがつかなかった。色々なことが変わって、頭と体がちぐはぐになったようだった。

 今はもう違う。二十歳にもなった。
 年が明けたら、この家を出よう。そう決めて準備をしていた。


「部屋を借りたんです」
 先生の温もりが、身体の芯に届く。ここは、本当にあたたかい場所。

「給付金のほかに、奨学金も借ります。それと、アルバイトの目処も立っているので、生計は大丈夫です」
 圭太郎君が聞いていないことを祈った。念入りに部屋を掃除しているんだ、と思っていて欲しい。
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