pp―the piano players―
***

 小さな会場だった。収容人数は二百人、といったところか。

「先生、すごい人気なんだね」
 そうつぶやくと、酒井君はくすっと笑った。
「早紀はさ、とっても近くにいるからわからないんだよ」
 開場間もないけれど、客席はどんどん埋まっている。渡すと言っていたチケットは結局二枚とも酒井君が持ったままで、わたしはどこが自分たちの席なのかを知らない。

「こっち」
 酒井君はそう言うと、わたしの右手を取った。会場は夕闇のように薄暗く、人は茂みのよう。冷房の風が首筋に当たって、背筋に寒気が走る。

 わたしは思わず、つながれた手に力を込めた。酒井君の手のひらは優しい硬さをしていた。

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