時計塔の鬼


決して後ろを振り向いてはいけない。

シュウ……。



私の中で、理性と感情が互いに揺るがし合って、私の動揺を静かに、けれど激しく煽る。

そこは月の光がさんさんと降り注ぐ夜の道路。

街灯のぼんやりと暖かみのある明かりさえもが遠く感じる。

みゃぁ~と緊張感を台無しにするような猫の甘えた鳴き声と、それに呼応するかのような犬たちの遠吠えが、静かな住宅街に響く。



後ろからは、まだ何かの気配がする。

おそらくは、人の気配だ。

こいつに家の住所を知られるわけにはいかない。



けれど……。

“怖い”

理性でそうわかっていても、感情がすぐに思考を乱す。

このまますぐに走り出して、家に駆け込んでしまいたい。

その衝動を今度は理性が必死に宥め、落ち着かせようとする。



そうして――。

私は一人暮らししているアパートの近くにあるコンビニへと逃げ込んだ。

浅く、速い呼吸を繰り返す。

明るい所が、こんなにも安心することを、初めて知った。

けれど、恐怖や動揺といったものから、未だに心臓が存在の主張を止めてくれない。






「あれ? 夕枝姉ちゃん?」


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