【完】キス、kiss…キス!
流れる涙と一緒にこの気持ちも流れてしまえばいいのに。


ナオちゃんの優しさを理解出来る大人になれればいいのに。


それでも、化粧が落ちるのも忘れて、ずっと希望を叶えてくれない涙を流し続けた。


「……あれ、姫、さん?」


そんなひとりぼっちの私に、ふいに優しいアルト調の声がかかる。


後ろを振り返ると、灰色のTシャツにジーパンとラフな服装に、頭には白タオル姿の早苗ちゃん。

「来てたんだ?……ってか、尚志は?」


早苗ちゃんは私に近寄って、何も聞かずに頭に巻いていたタオルを外して、私の涙をそっと拭う。


「早苗ちゃん……は、何でここにいるの?遊びに来てる格好じゃない、みたいだけど」


「ああ、俺はおっちゃんの手伝いでタコ焼き焼いてた。……じゃなくて、今は姫さんのことでしょ」


話を反らしても、すぐに聞き返す早苗ちゃん。


顔は女の子でも、その厚い胸板と筋肉質な腕に、射抜くような猫目に、改めて男の子なんだと感じる。
< 217 / 318 >

この作品をシェア

pagetop