【完】キス、kiss…キス!
早苗ちゃんは、私の涙でぐちゃぐちゃの顔を、逞しい胸板に押し付ける。


「これって、浮気の範囲外になる?略奪とか、そそるんだけど」


「早苗ちゃん相手に、浮気もなんもないよ」


流れる涙を灰色の柔らかい薄手のTシャツが受け止めて、早苗ちゃんの少し高めの温度が、心臓のゆったり脈打つ音が、私を落ち着かせていく。


私の言葉にはははと苦笑い気味に声をあげた早苗ちゃんの、そのごつごつの骨張った手が私の背中をぽんぽんと叩く。


「あーあ……尚志の女じゃなかったら俺にしとけって言えるのになー。あんなんでも幼なじみだから、裏切れないや」


「ぐす……ゴメンね」


やっと落ち着いて、私はそっと、自ら早苗ちゃんから離れた。


「姫さん、やっぱり笑ってた方が可愛いね。尚志にはもったいないなぁ」


本気なんだか冗談なんだか分かんない早苗ちゃんに、心が温かくなって、二人でクスクスと笑ってしまった。
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