図書館で会いましょう
「うん…私もさ、誠司は私のことを少しは特別な感情で見てくれてると思ってたんだけどね。でも…ここまで何の反応もないと、私の思い込みだったのかなって…」
由美の言葉を聞いて真理子は由美の頭を撫でた。
「大丈夫だよ。たぶん誠司くんは恥ずかしいんじゃないの?逆に焦ったらそれこそ紛らわしくなるよ。焦らない、焦らない。」
真理子はまるで赤ん坊をあやすかのように優しい口調で言う。由美はそんな真理子の優しさに癒されていた。

その頃、誠司もまた浩平と学食の食堂に一緒にいた。
「そういえば…お前、由美ちゃんとどうなの?」
「どうって?」
浩平の言葉に誠司はいぶがしげに反応した。
「どうって…お前。由美ちゃんと付き合うのかってことだよ。」
由美が悩んでいることを真理子から聞いている。浩平もまた何も行動しない誠司が気になっていた。
「付き合う…か…」
誠司は思いふけるように呟く。二人はしばらく無言になった。
「誠司。」
浩平が沈黙を破る。
「由美ちゃん、お前のこと好きだぞ。」
浩平の言葉に誠司は無言のままだった。
「お前だって由美ちゃんのこと、悪くは思ってないんだろ?」
「でも…」
やっと誠司は口を開いた。
「でもって何だよ?」
また誠司は黙ってしまった。そんな反応を見て浩平は語気を強める。
「お前だって好きなんだろ!?」
ストレートだった。浩平の言葉に誠司は息が止まるんじゃないかと思った。テーブルの上にあったグラスは平静を保っている。
「…あぁ。」
浩平は誠司が呟いた言葉に笑顔が出る。言い方も彼らしい。
「じゃあいいじゃんか。」
「でも…由美は俺にはもったいないような気がしてな。」
それが誠司の本音だった。その気持ちがあったから誠司はなかなか行動に出ることができなかった。
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