Magic Academy ~禁書に愛された少女~
冷たい水が、体から体温を奪っていく。

広がる真っ暗な世界。

さっきまでは、星の光りで視界は明るかったというのに、今はまったく何も見えなくなっていた。

(すごい…)

真っ暗なのに、どこか心地よくて。
不思議と怖くはなかった。

(母の胎内のようだ、と、誰かが言っていたな)

ふと声が響いた。真っ暗な世界の中で、赤い瞳がきらりと輝いた。

(母なる海、とは、よく言ったものだ)

笑いながら少年はそらの手を取り、さらに深いところへと降りていく。そらがふっと上を向くときらきらと輝く星が、波を打って光りを放っていた。

視線を少年の方へと戻すと、蛍のような光りがいくつかちらついているのに気づいた。

(あれは…)

よく目を凝らしてみると、見たこともないような珍しい魚達が、群れをなして泳いでいた。その中に、体の一部や、全体が発光しているものがいて、さっきそらがみかけた、蛍の光りの正体は、その魚達だと気づく。

そらは感動して、ほぅっと魚達を見つめていた。すると、どこからか、何か声のようなものが聞こえてきた。
耳を澄ますと、声は少しずつはっきりとしてきた。

誰かの歌声だった。
それは凛と澄んだ、とても綺麗な歌声。

どんどん近づいてくるその歌声。そらは、その正体が、自分の真上を泳ぐ、大きなクジラと、美しいマーメイドのデュエットだったということに気づいた。

(なかなか良いところだ)

少年の言葉に、そらはこくんと頷いた。

(まるで、夢みたい)

そらのその言葉に、少年はにこっと笑うと、ぱちんと指を鳴らした。
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