おいしい紅茶を飲む前に
 恋人といった雰囲気ではないわね。

なんて分析をしているシェリルはレンガの壁にぺたりと張り付いていて、不審な人物に他ならない。


 話していることまでは聞こえない。もっと近付かなくちゃ。

と思っている間に、二人は手を振って別れてしまった。

くるりと振り向いて満足そうに息をついて歩き出したお姉さまを、そのまま隠れてやり過ごす。

小さく口ずさんでいる曲は、確かシューベルトの歌曲。よっぽど良いニュースを聞いたのか、それとも今日が良い日であるのか。


 足取りも軽く、来た道を戻って行く彼女に、一台の馬車が近付いた。

優美な造りと美しい馬と、専任の御者。扉には紋章がついている。
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