おいしい紅茶を飲む前に
「あの、バラ、」

振り返った彼女が、やはり花束を抱えていた。見たような気がしたんだ。


「あなたにあげる。今朝開いたものなの。いい香りでしょう」

「えぇ、とても」

「気をつけてね」

走るようにして去って行くお姉さまを、バラ一輪を手にシェリルは見送ってしまった。


 白いバラは幾重にも花びらを重ね、朝露の滴がまだ残っているくらい新鮮。

やがてシェリルの足が、意を決したように前に出された。

薄紫のスカートが人ごみに吸い込まれるところを、ぎりぎりでとらえることに成功する。
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