たんぽぽ
 春華に先に階段を上がるように促し、僕は後に続いて上がった。春華はキョロキョロして、周りを見ていた。それが小動物のようでかわいかった。

 僕達は部屋に着くといつもは閉めない扉を閉めて、こたつに座った。

 僕はこたつに座ってから急に緊張し始めた。

 女の子を部屋に入れるのは初めてだったし、狭い部屋で二人きりでいるのがよりいっそう僕を緊張させた。春華からいい香りがする。シャンプーの香りとは違う香り。きっと春華の家の香りだろう。

 人はみんなそれぞれ、家の香りを体からさせている。僕はそれをかぎ分けることができた。春華からするその香りは余計に僕を緊張させた。

「汚い部屋でごめんな。わざわざ来てくれてありがと」

 僕は目いっぱい気を遣って話しかける。

「ううん。ってか高嶺、風邪引いたんじゃなかったの?普通に元気じゃん。やっぱりさぼりだったんだ。悪い子め」

 春華は笑いながら言う。

「あっすいません」

 僕も笑う。いつもの電話と同じような感じで話してくれる春華のおかげで僕の緊張も少しほぐれた。

 他愛のない話をして、同じ時間を過ごした。今日の授業中にあった出来事の話や、来る途中、本当は少し迷って僕に電話をかけようとしたが、病気のはずの僕に気を遣い、自力でここまで来たという話、僕の部屋が意外ときれいで広くて驚いたという話など。
 
 春華はこんな話もしてくれた。

『高嶺、知ってる?中国かモンゴルか忘れたけど、そこの昔の人は男の人は右に一つ、女の人は左に一つ耳に穴を開けて二人でおそろいのピアスをしてたんだって。そしたら、ずっとその二人は幸せになれるって信じられてたらしいよ。だからわたしがピアスの穴を開けるとしたら、右に一個だけ開けるんだ』

 僕の左耳には、ピアスの穴が一つ開いていた。

 それは僕が中学二年生のときに開けたものだった。人より少しませていた僕は、耳に穴を開けるのも髪を染めるのも人より早かった。一方、春華の耳には穴はなく、高校生になったら開けると言っていた。
 
 僕達は、高校生になって春華が穴を開けたらおそろいのピアスをしようと、二人して照れながら約束をした。
< 14 / 70 >

この作品をシェア

pagetop