たんぽぽ
 その夜の春華との電話はいつもとは違った。

 いつもは学校での出来事やテレビの話、今何をしているかなど、特に内容のない、何でもない話ばかりしていたがこの日は少し違っていた。

 まず、今日は楽しかったから始まり、このとき実はこう思っていたとか、あのとき実はこう思っていた、という話をした。

 恥ずかしがり屋の春華が色んなことを話してくれた。

 例えば、僕の風邪がたいしたことなくて安心したとか、〝よしよし〟されたのが嬉しかったとか、男の子の部屋に上がるのは初めてだったから本当に緊張したとか、キスされたのが嬉しかったとか、あのとき本当に帰りたくなくてずっと一緒にいたかったとか。

 それを聞くと、電話の向こうの春華を抱きしめてキスしたくなった。とても愛おしく思った。

 何でも話してくれる春華に影響され、僕も正直に話す。会いに来てくれたのが本当に嬉しかったとか、私服姿を初めて見て、「かわいい。」と言おうと思ったが恥ずかしくて言えなかったとか、女の子を部屋に入れたのは初めてだったし、本当は僕もとても緊張していたとか、キスしたとき、春華の反応があまりなかったので、もしかしたら嫌だったのかもしれないと心配していたとか、あのとき僕も春華を帰したくなかったとか。

 電話とは不思議なものだ。

 直接は絶対言えないと思っていたことが言えてしまう。春華が部屋に来て、話していたときは電話なんかよりも直接会って話す方が断然いいと思っていたが、電話もいいものだと思った。ただ、春華がどんな顔をして話をしたり、聞いたりしているのかが見えないのが残念だったが。

 頑固でゆずらないはずの僕はコロコロと意見を変えていた。相手によって影響されて、普段起こらないことが起こったり、今まで気づかなかったことに気づいたりする。これが恋なんだなと思った。

 今日の話が一通り終わると、僕は電話がかかってきたら言おうと思っていたことをきりだす。
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