たんぽぽ
「あっそうだ、今井、明日暇?」

 僕は事前に考えていた素振りを一時も見せることなく言った。

『ん?暇だよ』

「あっじゃあさ、明日遊ばない?せっかくの日曜日だし」

『エッ?うん。遊ぼッ』

 春華は嬉しそうに答える。

「じゃあ、待ち合わせの時間と場所はどうする?」

『ん?何でもいいよ。高嶺に任せる』

「んー、じゃああんまり早くて、寝坊したら嫌だし、一時に……、んー、そうだなぁ……、じゃああそこ。一時にお城の近くの公園でどう?」

 その公園なら人も少ないし街中にも近い、と今日電話をする前にリボン館で一緒に住む最も仲の良い高校生のおっじーに教えてもらった。それを少し考えたフリをして言う。きっとその公園なら方向音痴の春華でも来れるはずだ。

『いいよ。じゃあ、そうしよ』

「場所わかる?迷子になるんじゃない?」

 僕は笑いながら言う。

『わかるよ!迷子になんかならないもん。高嶺んちにも一人で行けたじゃん』

 声で、電話の向こうでふくれっ面をしているのがわかる。

「ごめん、ごめん。そうだった、そうだった」

 僕は笑う。

『絶対思ってないじゃん。ちゃんと行けるし!』

「そかそか。でも、もし迷ったら電話してよ。迎えに行くし」

『だから行けるってばッ!』

「まぁもしだよ、もし」

『ちゃんと行けますよーだ』

「ハハッ、じゃあ明日楽しみにしとくよ」

『うん』

「今日はほんと来てくれてありがとな。ほんとに嬉しかった」

『ううん』

「もう遅いしそろそろ切ろっか?またすぐに明日会えるんだし」

『うん』

「じゃあ、また明日な。おやすみ」

『うん。また明日。おやすみ』

 僕は幸せな気分で電話を切った。
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