たんぽぽ
 3月12日。

 春華の誕生日の8日前。

 僕にとってこの日はいろんな意味で忘れることのできない日になった。

 その日は、空には雲一つない青い空が広る日曜日だった。

 僕は部屋を片付けて春華を待っていた。この日も僕と春華は会う約束をしていて、どこに行くかは僕の部屋で決めることになっていた。

 部屋もきれいになったのですることもなく僕は勉強机の椅子に座り、窓から外をボーッと見ていた。外はもう春の到来を感じさせている。鳥が鳴き、心地よい風が吹き込む。空は凛と澄んで、透き通るような雲が流れている。

 さぁ今日は何をしようか。こんないい天気なんだ、映画やボーリングに行くのはもったいない。いつもの公園で日向ぼっこでもしようか。そんなことを考えていると、春華がやって来た。

 僕は軽く手を振り、下まで迎えに行く。

 「おはよ」と挨拶を交わし、世間話をしながら、部屋に上げる。春華も、この家に大分慣れたものだった。そこで、僕はふと気づく。春華は右手にコンビニの袋を持っていた。

 こたつに座り、僕は聞く。

「それ何?」

「ん?」

 と言い、春華はにやにやしながらそれを順番にこたつの上に出していく。コトッ、コトッと音をたてながら三本の缶チューハイが出てくる。缶の表面には、瑞々しく水滴がついている。

「今日は雄太君とお酒を飲もうと思いまして、買って来ました。」

 そう、嬉しそうに話す。

 そういえば、僕と酒を飲みたがっていたっけ。

 僕は、いわゆる下戸というヤツで酒にはめっぽう弱かった。しかし、缶チューハイくらいならいいだろう。こんないい天気の中、部屋に閉じこもっているのはやはりもったいない気がしたが、春華と酒を飲むのも楽しいに違いない。基本的には僕は、春華と同じ時間が過ごせれば何でもいいのだから、一緒にいられれば、それでよかった。

「俺、酒弱いのにー、酔っ払っても知らないよ」

 僕は笑って答える。

「フフッ、缶チューハイだから大丈夫だよ」

 春華も笑う。

「じゃあ、飲もっか」

 僕は一階の食堂にグラスを二つ取りにむかった。
< 21 / 70 >

この作品をシェア

pagetop