たんぽぽ
 部屋に戻り、一つの缶チューハイを開け、グラスに注いでいく。

「何に乾杯しよっか?」

 グラスを持ち、春華が言う。

「じゃあ、こんないい天気なのに昼間からお酒を飲んでいる若い二人に、かんぱーいッ!」

 僕はそう言って、グラスを春華の方に近づける。

「フフッ、かんぱーいッ!」

 春華がグラスを軽く重ねると、鈍い音がした。

 そして、僕達は一口酒を飲んだ。

「ジュースとかわらないね。おいしいッ」

 春華はそう言い、もう一口飲む。

「そうかな?やっぱ酒だよ。おいしいことはおいしいけど」

 僕ももう一口飲む。顔の周りと胃の辺りが熱くなるのがわかる。

 やはり、酒は苦手だ。気のせいか軽く頭痛がする。しかし、僕は構わず飲んだ。

 ほとんど見栄だった。いつものように、冗談を交えながら話し、僕達は酒を飲む。

 さすがに自分で買ってくるだけあり、春華は普通に飲んでいた。僕はグラス一杯飲むのが精一杯だったのに対し、春華は一人でほぼ二本の缶を空けた。春華は、「高嶺、顔赤―いッ!」と言ったりして、相当上機嫌だった。僕もとても楽しかった。

「…」

「…」

 不意に会話が途切れ、沈黙が流れる。

 僕達は見つめあい、長く濃厚なキスをした。

 そして、お互いに顔を赤くして恥ずかしがった。開いた窓から春風が入り込む。

「この部屋、ほんとに落ち着くね」

 春華は照れをごまかすために話し始める。

「そうかな?別に普通だと思うよ」

 僕も照れをごまかして話す。

「絶対落ち着くよ。わたし、人の家に行ってもあんまり落ち着かないけどこの部屋は落ち着くもん」

「そうなんだ。あんまり意識してないんだけどね。でもそれならよかったよ」

「…」

「…」

 再びの沈黙。突然、春華が立ち上がり言う。

< 22 / 70 >

この作品をシェア

pagetop