たんぽぽ
 次の日、空は大きく天候を崩した。

 大雨が降る中、僕が学校に行くと春華は学校を休んでいた。

 僕は風邪でも引いたのかと心配したが、僕から電話をすることはよっぽどのことがない限りしないことになっていたので電話をすることはできなかった。明日になれば来るだろうと軽く考えていたところもあった。

 しかし、その次の日も、その次の日も春華は学校に来なかった。これはさすがに疑問に思い、僕は家に帰るとすぐに春華に電話した。

『はい、今井です』

 出たのは、春華のお父さんらしき人だった。

 僕は、言葉遣いに気をつけて話した。

「高嶺と申しますが…、春華さんいらっしゃいますか?」

 ここで、急に相手の声のトーンが明らかに変わるのがわかった。

『あぁ君か…。春華のことだが君たちの関係はもう知っている』

 僕は心臓を摑まれたようにドキリとした。

 僕は何も言えない。

 相手は続けて話す。

『春華には今、部屋で反省させている。当分、学校にも行かせるつもりはない。自分のしたことを君もよく考えてみなさい』

 口調は変に冷静でそれが逆に僕を怖がらせ、僕を威圧した。

 他にも何か言っていたようだが僕にはもう何も聞こえなかった。

 僕は「はい」と「すいません」を繰り返す。

 僕の頭は何も理解することができず「なんで?」、「どうして?」がこだましていた。とにかく何も考えられなかった。

かろうじて最後に「春華さんは風邪などは引いてないんでしょうか?」と聞くことができた。

 春華は病気などにはなっていないらしく、その点だけは安心した。

 電話が切れた後、僕はひどく疲れていた。額にも手にもびっしょりと汗をかいていた。

 おそらく10分から15分程度の電話だったのだろうが僕には30分以上に感じられた。

 春華の家に行こうとも考えたが中学生の僕にとって「彼女の父親」という存在はとてつもなくおそろしいものだったので、どうしてもその勇気がでなかった。

 この日は春華の誕生日、3月20日の5日前だった。2日前から降っている大雨はいまだに止む気配はまったくみられなかった。
< 25 / 70 >

この作品をシェア

pagetop