たんぽぽ
 寮を出てからは、英男や楠川とはあまりからまなくなってしまった。

 英男も楠川も文系で私立大学を狙っていたので、授業は全くかぶらなかったし、学校では休憩時間に少し話す程度になってしまった。

 それに、あいつらはあいつらで僕に引け目を感じているようだった。僕は特に何も思っていなかったのだが。

 そうやって、特に変化のない毎日を送っていた僕だったが、二学期の終業式の前日に思いがけないことが起こる。

 放課後、一緒に勉強していた友達の竹本と僕の部屋で息抜きをしていた。息抜きといっても、竹本が塾に行くまで僕の部屋で時間をつぶしていただけだが。

 僕の部屋にはテレビもないし、マンガもない。そのため、時間をつぶすといっても、話す以外には何もない。

 竹本は中学時代からの仲の良い女友達の一人で、僕と春華の共通の友達でもあった。また、中学三年のときの僕と春華のことを知っている数少ない友達でもあった。

 知っていると言っても、僕は詳しいことを言っていないし、春華もほとんど何も言っていないようで、付き合っていたが、気まずい別れ方をしてから今も話していないというくらいしか知らないようだった。

 僕達は、勉強の話はもちろんのこと、卒業の話や将来の話もした。

 そして、自然と恋愛の話にもなった。

 その当時、竹本には好きな人がいたらしく、主にその恋についての相談をされていた。

 僕は、人の恋の相談に乗るのが好きだったし、得意だった。

 冷静に判断し、的確なアドバイスをしてあげられる方だと自分で思う。そのためか、よく恋の相談相手に選ばれていた。

 しかし、肝心の僕は春華のことがあって以来、未だに人を好きになることができなかった。

 人の相談に乗れて、的確なアドバイスをしてあげられるということは頭では色々とわかっているということだろう。

 しかし、心が人を好きになることを拒否していた。

 僕は、人を好きになって傷つくのが怖かったのだと思う。関係を持つ女はいたが、その子達に対して、好きという気持ちは微塵も感じなかった。

 そのため、もう付き合うこともしなくなっていた。

 恋愛の話になっても僕には話すことが何もない。
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