たんぽぽ
 ただ、僕の胸には一つだけ秘めた思いがあった。僕は、竹本が相手だったというのもあり、その思いを何気なく話し始めた。

「なぁ、俺そういえば、一つだけしたいことあるんだ」

 僕は、物思いにふけって言った。

「エッ?したいこと?何それ?」

 竹本は興味津々といった感じで聞いてくる。

「俺、あのときから今井とは一回も話してないけど、卒業式に、今井に一緒に写真撮ってくださいって頼んで一緒に写真撮りたいんだ。それがちょっとした夢」

 僕は苦笑いで言った。

 中学の卒業式は最低だった。だから、せめて最後くらいもう一度、一言でいいから話したかった。

 僕は今年の春のクラス替えで春華と同じクラスになったときからそう考えていた。

 もちろん、高1、高2の2年間も少しは話したいと考えていたが同じクラスになり、春華の存在を近くに感じるとその思いはいっそう強くなっていった。

 この学校の中学の卒業式は中高一貫というのもあり、形だけのものなのだが、高校の卒業式にはちょっとした伝統があった。

 中学棟と高校棟の間の大きな広場に在校生が集まり、卒業式を終えた卒業生が出てくるのを待ち、花束を渡したり、写真を撮ったりするのである。

 そこで、制服のボタンをあげたり、各クラブで集まったりもする。このときに卒業生同士でも写真を撮る。

 僕はそのときに春華と一緒に写真が撮りたかった。

 本当にただそれだけでよかった。

 ロクに過ごしてこなかった六年間の最後に記憶に残る思い出が欲しかった。また、卒業式は毎年、僕の誕生日かその前後にあったため、何かプレゼント代わりにいいことが起きて欲しかった。

「じゃあ、わたしが明日聞いてあげるよ」

 僕の思考を遮り、竹本が話し出す。

「エッ?」

 僕は一瞬、竹本の言ったことが理解できなかった。

「だから、明日わたしが春華に聞いてあげる。高嶺が春華と話したがってるってこと」

 竹本は真面目な顔で言う。
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