月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る
「発見者が警官で良かったな」

達郎はブナの木を調べながら言った。

「どうして」

「素人だったらショックで気絶してたろ」

「そういうことは言わないの」

たしなめながらもあたし日野麗実は内心、同じ事を考えていた。

真夜中の公園で血まみれの死体を見たら…まぁ達郎の言う通りだろう。

「死んだのはホステスだっけ」

「名前は吉原しのぶ。クラブ『ルノワール』のホステスよ」

年齢は22才。この公園近くの高級マンションに一人暮らし。

両親とは幼い時に死別。

兄弟もおらず、高校を卒業するまで施設と遠縁の親戚筋を転々としていたらしい。

「身内と呼べる存在はナシか。そりゃ良かった」

達郎の言い方にちょっと腹が立った。

「なんでそんなこと言うのよ」

「親兄弟に喉かき切られた身内の死体見せるわけにゃいかないだろ」

まぁ…それもその通りだけど。

達郎はブナの木の根元にかがみ込み、地面を眺めた。

「指紋も足跡もなしか」

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