月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る
事件発生から20時間以上が経過している。

現場検証はとうに終わっているが、達郎の言葉通り、成果はゼロに等しかった。

財布や装飾品に手をつけてない事や暴行された形跡もないことから、恨みによる犯行かという見方ができただけだった。

「死体はほぼ即死状態だってな」

達郎は立ち上がると手から愛用の黒い絹の手袋を外した。

「凶器は死んだ女性が手にしてたんだって?」

「その通りだけど、それがどうかしたの」

「自殺という線はないのか」

あるにはあるけど、他殺の線に比べれば薄い。

聞き込みの結果、吉原しのぶに自殺の動機は見つからなかった。

借金や病気に悩んでいた節はなかったし、恋愛トラブルもなし。

喉を真一文字にかき切っての自殺という例が珍しいというのもある。

しかし一番の理由は吉原しのぶと死の直前まで一緒にいたという人物が見つかったからだった。

「重要参考人がいたわけか。じゃ他殺で決定か」

「そう言いたいとこだけど…」

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