ウェンディ~君に贈る花~
どこかのコインロッカーの鍵だろうか。
『010』
その鍵の番号。
間違いなく俺宛だ。
おそらくこの周辺のコインロッカーだろう。
大抵のコインロッカーは預けられる時間が決まっているから。
俺に渡したいものがあるのか、それとも罠か。
(俺のファンではなさそうだな……)
警察にここがばれているとは考えにくい。
……井乃月だろうか。
俺は正体を特に隠すことなくヨシノのことを聞きまわっている。
同業者相手、しかも敵対しているわけでもない連中相手に隠す理由がないし、俺はいつも変装しているから。
と言っても、十星だと名乗っているわけでもないのだが。
そう考えると井乃月だとしてもおかしくはない。
この辺りでコインロッカーがあるのは近くの駅くらい。
(さて、どうするか)
ふと窓の外に目をやると、先ほどの鳩が蕾の膨らんだ桜の木の枝にとまっていた。
褐色の目を黙ってこちらへ向けている。
「……いくよ。行けばいいんだろ」
軽く溜息をつくと、カーキのモッズコートを選び羽織って部屋を出た。