その手に触れたくて

まさか相沢さんが言うとは思ってなかった。

まさか相沢さんが口を割って出てくるなんて思ってなかった。

そんな想定外の空気に、あたしはただただ相沢さんを見て首を振る事しか出来なかった。


なのに、


「隼人の所為じゃん…」


相沢さんはあたしを混乱させるかの様に小さく小さく消えそうなくらい小さな声で呟いた。

その相沢さんが吐き出した言葉に、


「どう言う意味だ?」


案の定、隼人の声が降り掛かってくる。

そんな2人から視線を落とし、あたしは俯いて目を閉じる。


もう…ダメ…


「香奈、言えよ」

「…安奈(あんな)さんだよ」


相沢さんがボソッと呟いたと同時にガンッ――…と隼人が扉を蹴る音が周りに響き渡り、隼人はあたしが掴んでいた手を振りほどいて急いでこの場を離れて行った。


「隼人!!」


あたしが叫ぶ声を無視して隼人は駆け足で姿を消して行く。


“安奈さん…”初めて聞く名前なのに、それが誰なのかはっきしあたしには分かってた。


先輩が安奈さん…


「ごめん美月ちゃん…」


申し訳ないくらいの小さな声が相沢さんの口から零れ落ちる。と、同時に、


「美月?何の事?」


少し強張った夏美の声が隣から聞こえた。

なのに、あたしは夏美を見る事もできず、隼人の走って行った方向を見てソワソワする。


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