その手に触れたくて
始まってしまった夏休みは何も思い出を作る事なく簡単にあっけなくも過ぎ去ってた。
あの日、隼人と会った日からまた気分も何もかもが優れなくて、それまで一緒に遊んでいた夏美達ともパッタリ縁を切るかのように遊ばなくなった。
と言うよりも遊びたくなんてなかった。外に出歩く事さえも何もかも全てが嫌で嫌で仕方がなかった。
ただベッドに寝転んで薄っぺらいテレビから洩れて来る会話の内容すら耳に入らず、何も考えなくなかった。
「痛っ…」
長時間ベッドに寝転んでいた所為でもあり身体がヒシヒシと痛みを出す。頭もズキズキ痛むし気分も重い。
フーっと一息吐いた時だった。
ピンポーンと鳴り響くチャイムに反応する。窓の外をふと見ると、もうすぐで夜に近づこうとする所為か薄暗い。
2度目のチャイムにあたしは面倒くささを感じる。まだ誰も帰ってきていない所為でもあり、あたしは仕方なく玄関に向かった。
「あ、美月ちゃん」
何気なく玄関のドアを開けたあたしに明るい声が飛び込む。
目の前に居るのは微笑んでいる凛さん。
「あ…」
「ごめんね、急に」
「あ、いえ…」
「あのさ、これ食べて。駅前の有名なケーキ屋さんのチーズケーキ。ちょっと通りかかったから買ったんだ」
「あ、ありがとうございます」
“良かったら上がります?”
付け加えるようにそう言ったあたしは家の中に視線を送る。
「うん。じゃあ、一緒に食べよっか」
微笑んだ凛さんをリビングに通し、あたしは食器棚から二つのマグカップを取り出す。温かい紅茶を注ぐと、それを凛さんに差し出した。