天然彼氏。
二人で教室の床に倒れこむ寸前、とっさに君が差し出してくれた腕にすっぽりと収まったわたしは、頭をぶつけずにどうにか助かったのだけれど――。


「大丈夫……?」

顔を覗き込みながら至近距離で問いかける君に、思わず鼻から、熱い液体を放出しそうになって、わたしは急いで鼻をつまんだ。


(あ……危なかった)

今までにも、鼻から赤い液体を滴らせたことは数えきれない程ある。


たとえば、授業中。

つまらない授業の内容が書き乱れている黒板を無視して、君に一直線に視線を注いでいたら、振り返った前の席の友達に「鼻が……」と、ティッシュを差し出されたり――。


たとえば、集配時。

提出物を配っている時、たくさんのノートの中から君の物を見つけ出しては中を開き、そして案の定、友達に「危険人物だよ……」とティッシュを差し出されたり――。


もう、ここまでくると、「変質者・変態」というカテゴリーに分類されてしまう。


(ましてや、本人の目の前で出すなんて……恥ずかしすぎて死んでしまう!)


「だっ、だだだいじょーぶっ!」

そう言いながら、君の腕の中から抜け出すわたしの心臓とつままれた鼻は、全く大丈夫ではない……。


「でも……鼻をつまんでいるし、顔も真っ赤だよ?」

心配そうに瞳をすがめる君に、動揺を悟られまいと、鼻をつまんでいない方の手を、目の前で必死に振ってみせる。


「最近、風邪気味で……。もしかしたら熱があるのかも――」

(本当は、違う意味で体温が上昇しているんだけど……)

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