上海ふたりぐらし
 再び転がるようにベッドに入った。そのとき、Aからの返信が来ていたことに気付いた。午前9時を回っていた。
「まだ痛む?もしかして、食中毒じゃないの?M子はいないのか?彼女なら君の家どこか知ってるだろ?彼女を探してみて。」
 よかった。どうやら、私の話を信用してくれたらしい。そうだ、Aの言うとおりまず、M子に連絡するべきだったのかもしれない。Aとのメールが習慣になっていた私、まず頭に思い浮かんだのが、彼だった。しかし彼は、
「今は非常事態、彼女もきっと焦っているに違いない。中国人の自分が行くより、日本人が付き添ったほうが何かと便利だろう。おまけに住んでいる所もはっきり知らない。」という理由で、M子を探すことを勧めたのだった。
 彼の言うとおりだ。私たちは普段大学の食堂で勉強していた。お互いの住んでいる場所もだいたいしか把握していなかった。私たち焦りながらショートメールでやりとりした。
「M子はいた?もしいなかったら直接電話してきて、僕が病院に連れて行くから。」

 この頃、既にAに恋心を抱いていた私は、痛む胃を抑えながら、M子に連絡するべきかどうか迷った。「もしM子がいなければ、Aに病院に連れて行ってもらえる。」ばかばかしいが、真剣に悩んだ。
 しかし保険の問題もある。もしAが連れて行ってくれたローカルの病院で、海外旅行保険が適用されなかったらどうしよう。実費で払えるかどうかわからない。 
 今は非常事態。私の恋心は現実に負けた。M子に電話をし、事情を説明した。
「M子いたよ。病院も教えてもらった。でも先生が午後からしか来ないって。」
「あ?病院はどこにでもある。その先生を待たずにほかの所に行った方がいいんじゃないの?」
 それはそうなんだけど、私は医療費が気になったので、M子が教えてくれた大学内の留学生用診療所の人のいうとおりにした。
 焦って私が正しく中国語で状況を伝えられないだろうというAの好意で、お互いもどかしさを感じながらも、メールでのやりとりを続けていたが、さすがに面倒になり、最後は直接電話した。
「今、診療所から電話があって、車で別のとこに連れて行ってくれるみたい。」
「わかった、じゃ、また連絡して。」
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