ぼくらの事情

ケーキ目指して意気揚々と階段を駆け降りて行く咲奈の後ろで、


「なぁ」


「んっ?」


続いて階段を降りようとしていた澪路を、響生が小さく呼び止めた。



不思議そうに響生を斜めに見上げる澪路に、


「……これ」


ポケットに手を突っ込み、昨日架が澪路の部屋を家捜しして見つけた写真を差し出す。



「可愛いだろっ? ちっちゃい頃の絆」



それを指で弾き、にっこりと笑ってみせた澪路を、響生は苛立たしそうに睨み付けた。



「はぐらかすなよっ! 一緒に写ってるの……」



「……あぁ。うちの親父だね」



予想していたはずの答えなのに、こうもアッサリ答えられるとさすがに拍子抜けしてしまう。



「……なんで」



平然と写真を見つめる澪路に、一人動揺してる自分がなんとも惨めに思えてくる。


「……アイツの父親は?」


「絆が小さい頃に亡くなってるよ」


「知ってるのか?」


「さぁ。写真すら見たことないけどね」



淡々と答えていく澪路の声に、頭の中に浮かんでいた嫌な予感はどんどん頭の中を占めていく。
< 130 / 191 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop