ぼくらの事情
ケーキ目指して意気揚々と階段を駆け降りて行く咲奈の後ろで、
「なぁ」
「んっ?」
続いて階段を降りようとしていた澪路を、響生が小さく呼び止めた。
不思議そうに響生を斜めに見上げる澪路に、
「……これ」
ポケットに手を突っ込み、昨日架が澪路の部屋を家捜しして見つけた写真を差し出す。
「可愛いだろっ? ちっちゃい頃の絆」
それを指で弾き、にっこりと笑ってみせた澪路を、響生は苛立たしそうに睨み付けた。
「はぐらかすなよっ! 一緒に写ってるの……」
「……あぁ。うちの親父だね」
予想していたはずの答えなのに、こうもアッサリ答えられるとさすがに拍子抜けしてしまう。
「……なんで」
平然と写真を見つめる澪路に、一人動揺してる自分がなんとも惨めに思えてくる。
「……アイツの父親は?」
「絆が小さい頃に亡くなってるよ」
「知ってるのか?」
「さぁ。写真すら見たことないけどね」
淡々と答えていく澪路の声に、頭の中に浮かんでいた嫌な予感はどんどん頭の中を占めていく。