ぼくらの事情
「いきなり倒れるからびっくりしたよっ。やっぱり響生ってひ弱?」
響生の照れ隠しに、絆がおどけたように笑ってみせる。
絆に差し出された眼鏡に手を伸ばした瞬間、
「やっぱり、眼鏡外したら澪ちゃんに似てるね。さすが兄弟……」
何気なく発した一言は、
「……だったら、ずっと外してれば満足か?」
またしても響生の逆鱗に触れてしまう。
「…………」
どんどん濁り始める響生の表情に、絆の笑顔は一瞬にして消えてしまった。
「どうせお前の目に映らないだろ。俺は」
そこから目を逸らすようにベッドから立ち上がった響生は、完全に絆に背中を向けている。
「響生っ」
慌てて呼び掛けた響生は、
「……もういい」
絆の手から眼鏡を取りあげ、保健室からそそくさと出て行ってしまった。