ぼくらの事情
「それなら家主の了承済みだ」
投げ渡された響生の携帯電話を恐る恐る耳に当てると、
「もしもし?」
「……どういうこと? ママ」
聞き慣れた母の声に、思わず握り締めた携帯電話からミシミシッと軋む音が聞こえた。
「この携帯の持ち主のこと? 彼ならアンタのお目付役よ。娘を案じる母の愛情じゃなーい。感謝なさいっ」
「ふざけないでっ! 急にこんなこと言われたって納得出来るワケないでしょ!」
白い肌をカッと紅潮させ怒る絆は、電話越しに見えてきそうな雅の飄々とした表情を思い浮かべ眉間にシワを寄せた。
「納得? 親の言うことも聞かないバカ娘の意見なんて端から聞いてませんっ。だいたい、アナタが素直に学校に行ってたら……」
彼女の言葉を皮切りに、母親の口からはペラペラペラペラとお小言の応酬。
聞くに堪えかねたそれを耳にした瞬間、
「うわっ!」
「何してんだよっアホ女!」
終了ボタンを押したと同時に、絆が床に叩きつけた響生の携帯電話はフローリングの上をバウンドしながら架の足元まで吹っ飛ばされていってしまった。