ぼくらの事情

「当たり前でしょっ。ちょっと貧血と疲労が重なっただけよ」


「検査にも異常は無かったし、入院も必要ないって」


こう言って腕組みをして仁王立ちする姿は、いつもの雅そのものだ。


その雅の態度が倒れてかつぎ込まれた人間ものには見えず、隣に居た澪路もさすがに苦い笑いを浮かべている。


「良かった……」


いつもの雅にいつもの澪路が、ちゃんと目の前に居る。


それを実感した絆の瞳からは再び、涙がポロポロと溢れていく。


「アンタ遺して死ぬワケないでしょっ。……母親らしいコト、まだ何にもしてないんだからっ」


絆の涙に傍らで、ぼんやりとやりとりを見ていた響生が手を伸ばすより早く、雅がその体を抱き締めた。


響生にベッと舌を出した後、雅は絆の額に自分のモノを重ねる。


「成人式も結婚式も私がメイクしてやんなきゃなんないし、一緒にショッピングしたり、料理したり……先送りにした約束が山積みよ」


「ママ……」


先送りにした約束。
これは寮で生活をしていた絆が、定期的に雅に送っていた手紙に添えられていた言葉のコトだった。
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