ぼくらの事情
夫が遺した事務所を必死に守る為に、絆を寮に入れてしまったこと。
後悔して悩んでいた雅を、ずっと支えていたのが絆からの手紙だ。
「ヘタクソな字で、ママと一緒に住みたいですって書いてる手紙、見る度に胸が潰れそうだった……。でも、頑張れたのよ? 私にはアンタが居るって」
気が付けばいつも気丈な母親の目にも、じわっと涙がこみ上げている。
例え傍に居られなくても、雅が自分を愛していてくれたこと。
十七年経った今、絆は漸くそれを体一杯に実感していた。
「うぅ……雅さん、絆ちゃん……良かったね」
「……なんでアンタが一番泣いてんだよっ」
そんな麗しき母娘愛情物語の観客と化していた、加治原家の男衆。
この母娘と五年間共に過ごしてきた澪路は、感慨深げに二人を見つめている。
しかし、澪路と響生の間に居た理事長もとい、二人の父親までが絆に負けないくらいに号泣しているのは正直解せない。
「オッサンは関係ねぇだろっ」
「歳だね。歳喰って涙腺が緩んでんだよ」
訝しそう……ていうか、不審そうに我が父親を見る息子たちの目は、ものすごく冷ややかなモノだった。