ぼくらの事情

「……昨日の人なら、ママの愛人だよ」


変わらないトーンで発せられた絆の言葉に、生徒会室の空気が凍った。


目の前の響生は目を見開き、正面の二人はお菓子に伸ばした手が完全に止まっている。


「っていうのは冗談で……」



愛人という言葉にまさか、ここまで破壊力があるとは思ってもみなかった。


「びっくりした……」


「ごめんごめん」



声を揃えて安堵する三人組に、薄い笑いを浮かべてとりあえず謝っておく。



漸く生徒会室の空気も流れを取り戻していく中で、



「あの人は、わたしが一番失いたくない大事な人だよ」



サラッと吐かれた事実に、空気は再び氷点下に変わった。


「あ……れっ?」



目の前の響生は目だけじゃなく口まで全開に開き、正面の二人は食べかけのお菓子を口からポロリと落としてしまっていることに気付いていない。



正直に答えた『大事な人』は冗談で言った『愛人』よりも何故か、強い破壊力を秘めていたらしい。


「えっと……」


絆の単純思考回路が三人組の思いがけ無いリアクションで、ぐにゃぐにゃと混乱し始めた。

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