俺様王子と秘密の時間
羽鳥は身体を起こしてあたしから離れると、髪の毛をくしゃっと触った。
「帰れよ。送ってやれないけど」
「え……?」
「服着てっていいから早く帰れ」
「でも……」
羽鳥は黙りこくっているあたしから視線を逸らして言った。
「こんな情けねぇオレ、見られたくねぇから」
切れ長の瞳が揺れるのをあたしは見逃さなかった。
あたしは羽鳥が干してくれた生乾きの制服と、くしゃくしゃになった写真を拾い上げた。
「オレ……謝らねぇよ……」
部屋を出る直前あたしの背中に、羽鳥の声が響いた。
あたしは何も言えずに部屋を飛び出した。
千秋に一番言ってほしい言葉を、千秋が一度だって言ってくれなかった言葉を羽鳥はくれたのに。
こんなあたしを好きだと言ってくれたのに。
それでもあたしはもうこれ以上、自分の気持ちに嘘つけなかった。
羽鳥の無邪気な笑顔が瞼に浮かんで、やがて消えた。