感方恋薬-知られざる月の館-
そう、わざわざなんてなのだ。


あたしは幸に、放り投げられたボールみたいな物だ。


でも若様の顔を見ると何故か心が躍るというか、ときめくと言うか、まんざら悪い気分では無い。


迷惑な実験だと思って居たが、この部分だけ抜き取ると、幸の実験に積極的に協力してもいいかなぁなんて気分にさせられてしまう。


「おお、よく来たな貴子よ」


若様の背中越しに爺があたしに話しかける。


あんたはいいんだ、あたしに話しかけなくても。


あたしが用事有るのは若様だけなんだから。


あたしが爺を無視して若様にかまけて居ると「なんじゃ、つめたいのぉ」といじけ気味に足元の小石を(小石が転がってるのはすご~く不自然な館なんだけど)こつんと蹴飛ばしながら、のたのたと、あたりを歩き始める。


うん、鬱陶しい…
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