【短編】お願い、ヴァンパイア様
 どんなに醜い欲望すらも、その命に代える。

コンプレックスに思っていた髪質だって、レンが触れれば温かく息づく。


 相変わらず直らない泣き虫も、レンは優しく包んでくれる。



 きっと、すでに恋に落ちていた。


「泣くな。人間の涙には……弱いんだ」

 哀しそうに、でも笑ったレンの顔が頭に焼き付いて、今でもすぐ思い出せる。


 今までの自分を否定したくなくて。

すぐには変われなくて、蓋を閉めるように翔くんにすがっていた。


「わたし、レンの側にいたい」


 本当のわたしの言葉。

しかしレンは、カッと険しい顔をしてわたしを睨みつけてきた。



「同情なんかまっぴらだ!」

 そういってわたしを突き飛ばし、海岸線をすこし走るとふっと姿を消してしまった。



 レンに突き飛ばされた衝動で、道にはカバンから飛び出した教科書やノートが散乱した。

そのなかには、あの魔術書も。


 パラパラと潮風に煽られ勢い良く捲られるページ。

わたしはそっと手に取る。



 『恋の媚薬』になんて、頼らなければこんな想いをしなくて済んだのかもしれない。


でも、それがなかったら、わたしたちは出会えなかった。



< 51 / 74 >

この作品をシェア

pagetop