【短編】お願い、ヴァンパイア様
 自分で訳した手紙を、強く握り締めていた。

陽はもう海の向こうへと消えかかるところで、座り込んでいた重い腰をあげる。


 少しでもレンの悲しみが報われるのなら、わたしの小さな恋ぐらいかまわない。

レンの笑顔に近づくために。


「神崎さんに会いに行こう……」


 わたしはさざなみを後にした。



 学校に連絡して、わたしは神崎さんの自宅の住所を聞きだした。

先生は「ようやく神崎にもそういう友達が出来たか」と嬉しそうだった。


 友達……そう、わたしはもう彼女を信頼している。

大切な存在の一人なんだ。



だから、彼女の姿を見たとき、とてもほっとした。


「どうやら、タダゴトではなさそうだな」

 彼女なりの優しさで出迎えてくれて、また涙ぐみそうになっていた。


「……神崎さん。……わたし、ね…」

 そういいかけたわたしを、神崎さんは広い和風なお屋敷の玄関へと招き入れてくれた。


 畳が何畳も広がる大きな客間。

見た目以上に屋敷の規模はでかいのに、神崎さんは背中越しに「ここは旧分家のお屋敷…今は物置と同等」などと言っていた。

そうしたらわたしの家なんかどうなるのだろう、と真剣に悩んでしまっていた。


 通されたその客間に、周到に用意された2つの湯のみ。

すっと座ると、神崎さんは驚きもせずただわたしに座布団を薦めてきた。


「あなたがくることは分かっていた」

 そういって急須から湯のみに注がれたお茶を、わたしは遠慮なく頂いてしまった。

でもそれは、思いのほか熱すぎず喉を通過していった。


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