泣き虫Rocker
「あ? なに買うの?」

馴れ馴れしく話しかけてくる男に、胡散臭い目を向けたら苦笑して、両手を軽く上にあげた。

「そんな目で見んなって。ほんとにわかんないんだ? ちょっと抜けます」

最後は、後ろの関係者に向けて言って、黄色のTシャツを着た彼はちょいちょいとあたしを手招きして、ライヴハウス横の路地裏へと入り込んでいく。
関係者以外立ち入り禁止と張り紙がされた重そうな鉄扉を引き開けると少しだけ、ドラムの低い重低音か、はたまたギターの音か、漏れてきた。

目の前の人の怪しさよりも、あたしみたいなのが入っていいのかと戸惑いが先に来て、いいの? と聞いたけど、いいのいいの、と簡単な返事しか返ってこない。

そうこうしてるうちに目の前のスタッフオンリーの部屋のドアを開けて、どうぞと促される。

「やっぱ、スタッフのTシャツ着てるのに、客と喋ってちゃまずいっしょ。で、本当に俺のこと全くわかんない?」

「全然、身に覚えもない」

「その物言い。園田らしいよ。じゃ、隣の席のイチくんっつったら?」
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