窓越しのエマ
この辺りは山麓に位置する海岸で、国道を越えるとすぐに山地が広がっている。

海岸寄りの丘陵地にホテルや病院などの施設が並び、山腹にかけて民家や集合住宅が点在している。

エマが曲がった通りは、山頂近くまで延々とつづく一本道だった。


胸騒ぎがした。

これ以上進んではいけないと、僕の中の何かが警告している。

この先には、何かよくないものが潜んでいるという確信めいたものがあった。


小走りでエマに追いつき、僕は言った。


「エマ、海岸に戻ろう」


エマは振り返り、首を横に振った。


何だというんだ一体。

どうして僕のいうことを聞かないんだ。

おかしい。僕の思い通りにならないエマはエマじゃない。


「駄目よ。そろそろ帰らなくちゃ」


エマがまた不可解なことを言う。

帰るところなんてあるはずもないのに。


エマはウインクをしてから、「ついてきて」と言って、僕の手を握った。
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