窓越しのエマ
「……そうか、冗談で言ったんだろう?」

僕はエマを問いただした。


「ううん、冗談なんかじゃない」

と、エマが答える。


胸の奥にどろりとした黒い感情が沸き起こった。

僕は無性にエマを傷つけてやりたくなった。


僕は時々、エマに対して殺意を抱くことがある。

殺してしまえばエマはいなくなってしまうが、取り返しがつかないというわけでもないだろう。

いずれにしろ、エマが永遠に僕のものであることには変わりないのだから。


不意にエマがむっとした表情になり、僕の腰のあたりを指差した。


エマが指差す先を見てぎょっとした。

僕はいつのまにか、左手にサバイバルナイフを握りしめていた。

戦争映画の白兵戦で使われるような、ごついナイフだ。

自分のことながら、僕は呆気にとられてしまった。

何より、僕自身が気づいていなかったことに驚いた。


呆然と左手のナイフを眺めていると、突然エマが走り出した。


「――危ないもの出さないでよ」


駆けながらエマは叫び、少し離れたところで僕のほうを振り返ると、しかめ面で舌を出してみせた。


彼女はどんな状況に置かれても、楽しそうに振る舞うことを決して忘れない。

たとえ自分への殺意を目の当たりにしたとしても。


僕はナイフを投げ捨てて、エマを追いかけた。

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