窓越しのエマ
エマを追って、砂浜からつづく堤防に上がると、釣り人らしき男が横たわっていた。


ナイロンのバッグを枕代わりに、年季の入った麦わら帽子を顔の上に乗せ、胸をゆっくりと上下させている。

どうやらここで昼寝をしているらしかった。


傍らに釣り道具の一式が置かれてあり、エマが屈んでバケツの中を覗きこんでいる。


「ねえ、見て」とエマが言うので、僕は男を起こさないようにそっと近づき、バケツを覗いてみた。

中でイソガニが五匹か六匹うごめいていた。


「蟹だね」

と僕は言った。


「おいしそう」


時折り、というより今日にかぎっては度々だが、エマは突拍子もないことを口にする。

蟹なんてどうやって食べるというのだろう。

返す言葉もなく、僕は無言でかぶりを振るしかなかった。


あまりここに長居して、気持ちよさそうに寝ている男を起こすのも憚られたので、僕はエマを促して静かにその場を離れた。
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