窓越しのエマ
相変わらず陽射しは強かったが、かすかに涼気を含んだ潮風は心地よく、このまま海沿いを歩いて埠頭のほうまで行ってみたかったのだけれど、エマが海とは反対側に向かって歩き出したので、仕方なく僕もあとを追った。


エマは猫のように気まぐれで、次の行動を予測できない女だ。

エマに振り回されて辟易することもあるが、おかげで一緒にいて退屈することはなかったし、そんなところも彼女の魅力だと思えた。

どのみちエマは、最終的には僕に献身するしかないのだ。


だからこうして、先を行くエマについて回ることには慣れていたのだけれど、国道に出る階段を上りはじめた時には、さすがに声をかけずにいられなかった。


「エマ、そっちは駄目だよ」


エマが階段を一段飛ばしで駆け上がる。


「エマ――」


僕の声が届かないのか、エマは振り返りもせず、弾むような足取りで階段を上り切ってしまった。


僕は一度舌打ちをしてから、不承々々階段を上がった。

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