嘘で隠された現実(リアル)
「今夜は残念ながら、時間の関係で1曲しか歌えなくなってしまいました」


会場から「えーっ!」という不満の声が上がる。

当初の予定では2曲だった。

しかし、こういったライブハウスのような場所では、よくあることだ。

私は仕方のないことだと納得しながらも、落胆の色を隠せなかった。


「皆さんに聴いてもらいたくて用意してきた曲ですが、それはまた次の機会に…。これを、再び皆さんに逢うための口実にさせてください」


そう言って、星は微笑む。

数秒前まで不満の声が飛び交っていたはずの会場は、「きゃーっ!」というような歓声に変わっていた。

一方私は、普段とは違う星の大人びた姿に、苦笑しながらも目を奪われていた。


「それでは今夜は、皆さんにこの曲を贈ります。聴いてください。A New Moon」


流れ出した音楽は、決して静かなものではない。

他のバンドに比べれば激しくはないが、それでもバンドの曲といった感じだ。

しかし、やはり悲しい歌。

私は演奏を、歌を、その歌詞を聴きながら、ゆっくりと目を閉じた。
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