恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~

視線をほんのちょっと別のところに向けてみるだけで、袋小路に迷い込んだように行き詰っていたのがまるでウソみたいにグーンと世界が広がって見える。


そして……、


そして5回目のデートで、あたしは紫苑さんと一緒に朝を迎えた。

母にはおにーちゃんのところに泊まりに行くとウソをついてたから、これから当分、目を合わせることさえできないと思う。


避暑地の別荘で迎えるふたりだけのブレックファースト。

「ご主人様、美味しい夜明けのコーヒーがはいりましたよ♪ どーぞ♪」

ふざけてメイド口調で言いながら、彼のカップへとコーヒーを注ぐあたし。

「ありがとう。桃香ちゃんもすっかりメイドが板についてきたって感じだね」

「ハイ♪ カフェのお客さんにうっかり“ご主人様”って言っちゃいそうなくらいメイドさんになりきってます♪」

「そっかぁ」

そう言って、ユラユラと湯気の立ち昇るコーヒーにクチをつける紫苑さん。

ゴクリ。
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