学園(序)
部屋に戻ってみると、吟ネエが歌っている。

先ほどとは全く違う明るいテンションで、部屋の中に声が響いていた。

本来の吟ネエの声。

嫌々じゃなく、見てて本当に楽しそうだ。

それが偽りなのかどうなのか疑う気にもならないほどに、吟ネエの顔に見惚れてしまう。

気持ちが篭っているかどうかは解らないけど、伸びと響きが違っていた。

ずっと声を聞いていたい。

高鳴った胸の鼓動が止まらなかった。

座る事も忘れて他の物も視界に入らないくらいに、歌の偉大さを知った一瞬だった。

吟ネエはキスをしただけで、自分の気持ちを切り替えられるのか。

あのキスは吟ネエのエンジンをかける物だったのか。

だとしたら、俺は喜ぶべきなのだろうか。

もし、もし、俺じゃなくても吟ネエにエンジンがかかったとすれば?

そうかもしれない。

吟ネエは生気を貰うといっていた。

もちろん、俺以外にも生気はあるだろう。

皆、生き物なんだからな。

だから、俺であるから確実なんて事はないんだ。

内心は喜んでいたが、ぬか喜びをするかもしれない不安があったので次第に沈んでいった。

歌が終了すると、龍先輩と笹原先輩が吟ネエの歌に対して、初めて感嘆の声と拍手を送っていた。

「ワラワはそなたの声が好きになった」

「あはははは!私もー!吟ちゃんって、人を惹きつけるものがあったんだね!」

それだと、さっきまでは何もなかったと言っているようなものだろう。

「じゃが、何故、最初からその声を出さなかったのじゃ?」

「お腹が空いてたアル」

「では、戻ってくる前に何かを食ろうておったのか?」

「丞の驕りでアル」

俺の首元に腕を巻きつけて、胸元に頭を持ってくる。

良い匂いで心地がいいと思ったら、吟ネエの美乳が頭に当たっていた。
< 91 / 101 >

この作品をシェア

pagetop